働き方改革と企業競争力の両立

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働き方改革と企業競争力の両立 

 

弁護士の上田です。 

私は弁護士になるまえに、経営者・人事管理責任者として労務管理の問題にも深く関わってきましたので、労務管理関係のお話をします。

 

1 社長さんからの働き方改革実施に関する質問

最近ある社長さん(中小企業)からこんな話を聞きました。

「働き方改革推進の要請に応えて、我が社でも残業時間削減を強く推進すべきか悩んでいる。実は、結構残業が多いので、以前から減らすべきだとは思っていたが、現実に上から旗をふろうとすると、幹部から慎重論も強い。まず残業時間削減を現場に強制すると、ライバルに後れをとってしまい業績が悪化するのではないかという懸念が強い。さらに残業代削減に反対する社員も多いし、長続きしないにきまっている、などと言われている。」

 

2 社長さんの懸念は当たっています。

確かに社長さんの懸念は当たっています。会社が単に「早く帰れ」とだけ命令すると、以下のように副作用が強くでてしまうのです。 前提として、この社長さんの会社ではサービス残業は存在しないようです。

(1)企業競争力の毀損

会社はライバルと常にギリギリのところで争っています。 残業時間削減がサービスの量や品質の低下に直結してしまうと、競争力が減少してしまいます。現場は「ライバルに負けないために」残業してでも頑張っているのだから、「残業するな」と言えわれると「負けても良いのか」と反発がでてきます。業界でトップクラスになりたいというモチベーションも下がります。 

(2)残業代減少に対する社員の反発

長らく残業が多い状態が続いている会社では、残業代が社員の「生活給の一部」となっていることが良くあります。生活設計が残業代を前提になされているので、急に残業代が減少すると、社員から生活が苦しいとの反発が非常に強くなります。
また、遅くまで仕事を頑張っている=会社に貢献しているという意識の強い社員程、「遅くまで残るな」と言われると自己否定されたような気持ちになり、モチベーションも下がってしまう可能性もあります。

(3)過去に長続きしなかった

実は多くの会社で、過去に残業時間削減の取り組みが行われてきて、かつ、数年すると元に戻っていたという歴史もあります。大手企業でも、労働基準監督署が入ってサービス残業を指摘されると、早帰りを全社で推進して達成しますが、数年してほとぼりが冷めるとまた元に戻るということを何回も繰り返している例もあります。(1)と(2)の問題が大きいので、短期間は残業を抑えても、市場環境や業績の激変のような「緊急事態」が発生すると、容易に長時間残業が復活しやすいのです。過去にそういう経験をしていると、社員も今回の取り組みにも半信半疑となりやすく、抜本解決に取り組むモチベーションもでてきません。

 

3 私からのアドバイス 本気で取り組めば解決も可能です

このように働き方改革の実践は結構大変なのですが、目的意識を持って徹底的に取り組めば、前述の(1)ないし(3)の反発・副作用を乗り越えて上手くいく可能性もあると考えます。ポイントは、働き方改革を「政府から要請されたから仕方なく行う」のではなく、「企業競争力の向上の機会と従業員のライフスタイルの改善」を全て達成する絶好の機会と捉えて、複数の改革を同時かつ徹底的に行うことです。 

言い換えれば、コンプライアンス(法令遵守)を「強制されてやむを得ずに行う事」と捉えずに、コンプライアンスを守ることで企業競争力の向上を達成すると捉える考え方になります。 まさに働き方改革をそのように企業競争力の向上と従業員のライフスタイルの改善の機会と捉えるのです。

 

4 改革の考え方

(1)残業時間削減よりも、付加価値の低い業務の削減を重視する

単に「働き方改革のために残業時間を減らせ」と上から指示を下すことも多いのですが、How to do(どうやって)の部分を現場に丸投げすると、現場が酷く混乱します。それが「負けても良いのか」との反発に繋がります。それよりも、この際、業務の贅肉をそぎ落とすように、徹底して付加価値の低い業務を削減することを目標におくと良いと考えます。

そして、この際、残業時間削減より多く時間の付加価値の低い業務を削減することを目標にしたいところです。例えば、総労働時間を10%削減することが目標ならば、20%の業務を削減する目標にするのです。どんな業務を削減すべきかを上から具体的に指示しても良いでしょう。 

余った10%は新規戦略的に取り組む業務にあてます。そうすることで後ろ向きの仕事だけでなく、前向きな企業競争力の向上の施策になります。  

 

残業が多い会社にありがちなのですが、社員が自己防衛の(周りに合わせるため)ため無意識に「付加価値は高くはないが、楽でかつ頑張って見えるような仕事」を抱え込んでいるケースもあります。1人だけ早帰りすることは上司及び同僚との摩擦を生むと考えて、そのような仕事を無意識に抱え込むのです。さらに遅くまで仕事していることが人事上の高評価に繋がると社員が感じている会社は、そのような仕事が多くなる傾向にあります。そのような仕事をあぶりだして削減することが目標です。

付加価値の低い業務の削減は相当に大変です。しかし、やる価値は大いにあります。

 

(2)削減した残業代は社員に還元します

削減できた残業代の大部分は従業員に還元すると良いです。給与のアップで還元すると

固定費の増加を招きますので、賞与などの変動費として還元します。

上記(1)の付加価値の低い業務の削減は大変なので、社員の負担は大きくなりますから、その上でさらに報酬を減らされては、反発が大きすぎるからです。逆に報酬総額がそれほど減らずに早帰りができるのなら、(1)に率先して協力しょうという意欲もでてきます。

企業にとって、働き方改革は、コスト削減(残業代の削減)ではなく、企業競争力の向上が主目的と考えると良いのです。

 

(3)永続する改革とするために、意識改革に繋がる施策を実施します。

改革を永続させるためには管理職を含む従業員の意識改革も不可欠です。意識改革は、長年擦り込まれた考えを変えることですから時間も根気も必要です。そのために、就業規則、報酬規定、業績考課制度を変更します。部下の人事評価権を持つ管理職に対する、評価スキルについての研修・トレーニングも重要です。

このように徹底した改革を実施する事で、「どうせ長続きしない」という社員の不安・不満も取り除かれます。 

 

5 実践方法

ここまで言うと、「絵に描いた餅」「机上の空論」という反論も出てくるかもしれません。

確かに、この戦略の実践は簡単にはいかないと思いますし、緻密な実践戦略と現場での改善つまりPDCAを何度も回していくことも不可欠です。

大変ですが、これができれば他社に差別化できます。

 

私は、弁護士ですが、現場や実践に強い経営コンサルタントでもあります。具体策でお悩みの方がいらしたら是非ご相談ください。一緒に考え・悩んで解決策を見つけましょう。 

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