カテゴリー:中小企業が直面する労働問題の基本知識

内容証明郵便の意義と効果

内容証明郵便とは、「誰が、誰に、いつ、どんな内容の手紙を出したのか」ということを、郵便局が公的に証明してくれる郵便です。請求書を送る場合、内容証明郵便で送ることで、将来相手方から「そんな手紙受け取っていない」「請求を受けたことなどない」という反論を受けて、水掛け論になることを防ぐことができます。

 

また、内容証明郵便を送ることは、裁判外の請求(催告)にあたりますので、時効が6ヶ月間中断します(民法147条1号 同153条)。そこで内容証明郵便を送ることで、まずは時効を中断させておき、6ヶ月の時効中断期間の間に訴えの準備をするということが有効なのです。口頭や通常の手紙によっても請求(催告)と時効の効果も生じますが、前述のように相手方から「そんな手紙受け取っていない」「請求を受けたことなどない」という反論を受けやすいので、内容証明郵便による通知が使われます。

 

また、弁護士名で内容証明郵便で請求することは、相手方にこちらの本気度、つまり法的措置も辞さないという覚悟を示す事実上・心理上の効果もありますので、相手方が内容をよく読んで真剣に解決方法を検討するきっかけにもなって、紛争の解決に近づくこともあります。

さらに、弁護士名の内容証明郵便受け取ると、相手方がその請求内容の妥当性について弁護士にアドバイスを求めるきっかけになることも多く、相手が弁護士からの客観的アドバイスを得ることで、解決に近づくこともあります。

 
 

労働審判とは

労働審判とは、平成18年(2006年)、増加する労働事件を迅速に解決するために導入された制度です。

審判官(裁判官)1名と,労働問題の専門的な知識と経験を有する2名の労働審判員によって構成される労働審判委員会(中心は裁判官)が、労働者と使用者との間の紛争につき、調停(話合いによる解決)を試み、調停がまとまらない場合は労働審判をする手続きです。

労働審判の大きな特徴は、平均約80日程度と裁判より相当に短い期間に終了することです。裁判所に呼ばれる日(期日)も原則3回までと定められていますが、実際に1回目の期日で、見通しの方向性や調停案が示されることが8割以上あるのです。

また、労働審判委員会(中心は裁判官)は、当事者の話を直接聞いて心証を形成する(自分の考えを固める)ことも多いので、特に第1回目の期日には弁護士だけでなく当事者本人も出席することが望ましいとされています。

一方が労働審判の結果に不満な場合は通常の裁判に移行しますが、実際には8割以上が労働審判で終了して裁判にはいかないようです。

 
 

裁判の手続きと期間

裁判は、訴状の提出から、1ヶ月半程度で、最初の期日が設けられ、それから約1ヶ月ごとに書面のやりとりを原告・被告が複数回してそれぞれの主張を展開します。双方の主張が出尽くしたところで、証人尋問(証拠調べ)を半日〜丸1日行います。それから双方が最終書面を提出し、その1ヶ月半から2ヶ月後に判決がでます。 

以上の裁判手続きのほとんどは書面の提出によって行われるので、裁判期日では、裁判官からの書面の内容についての質問や次回の書面提出の内容と期日の打ち合わせのみで20分程度で終わることも多いのです。期日に出席するのは弁護士のみの場合が多く、当事者本人が出廷するのは証人尋問(証拠調べ)だけという場合が多いです。

また、上記裁判のいろいろな過程で、裁判官から「和解する気持ちはあるか」と聞かれることも多いです。

 

裁判期間は、労働審判に比べると相当長く、主張の応酬があった場合には、早くても6〜9ヶ月、紛糾すると1年から2年かかることもあります。

 
 

労働審判と裁判の違い

労働審判と裁判の一番の違いは期間の長さで、労働審判は平均2ヶ月程度で結論が出るのに対し、裁判は1年程度はかかることを覚悟したほうが良いのです。 

労働審判は非公開なので、会社側の関係者の出席が制限される場合があります。一方裁判は公開なので、証人尋問(証拠調べ)の際には、法廷の傍聴席に部外者も含めて出席できます。

もっとも、労働審判は迅速な解決を図るため、「ざっくりとした」事実認定をする傾向にあると言われます。そこで、例えば不当解雇の紛争で、解雇の根拠たる事実の存在自体に争いがある場合は、しっかりと主張を尽くした上で裁判官に事実認定をしてもらったほうが良いという考えで、裁判手続のほうが適している場合もあります。例えば、解雇の理由がパワハラ行為であるところ、当事者はパワハラ行為はしていないと正面から争っている場合などです。

 
 

試用期間後の本採用拒否

試用期間後の本採用拒否は、裁判では簡単には認められない傾向がありますので、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 

試用期間とは、企業が人材を採用した後に、入社後の一定期間を区切って採用者の能力や適性、勤務態度などを見極める期間のことをいいます。一般的には3〜6ヶ月の期間が多いようです。

法律的には、試用期間には解約権留保付労働契約が成立していると解されます。この意味は、労働契約は成立しているものの、企業は労働契約を解約する権利を保持(留保)している状態ということです。労働契約は既に成立していることもポイントです。

ここで、経営者の中には、試用期間中は労働契約を解約する権利を保持しているのだから、気に入らなければ自由に解雇(本採用拒否)することができる、と考える人もいますが、間違いです。試用期間中でも労働契約は成立していますから、解雇や本採用拒否は自由にできるのではなく制限があります。(試用期間中でない)通常の解雇はハードルが相当に高いところ、試用期間中の解雇や本採用拒否はそれよりはある程度ハードルが低いという違いがあります。

 

判例では、「(試用期間中の)留保解約権の行使(解雇)は、解約権留保の趣旨や目的に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められるような場合にのみ許される」とされています。後半部分の「客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当と認められるような場合にのみ許される」の基準は通常の解雇の基準(労働契約法16条)と同じ文言ですから、厳しい基準です。また、判例は、労働者側も他の企業への就職の機会を放棄して入社していることも、会社が試用期間中の解雇や本採用拒否を簡単にはできない理由としてあげています。一方で、試用期間中に、採用過程では知ることができなかった(知ることが期待できない)事実が明らかになることもあるので、そういう場合には解雇や本採用拒否も認められる可能性もあるとしています。 

 

判例で、試用期間後の本採用拒否が認められた場合には、勤務態度が極めて悪い場合や、正当な理由なく遅刻や欠勤を繰り返す場合、さらには経歴の重大な詐称があった場合などがあります。単に「能力が期待に達していない」というだけでは試用期間後の本採用拒否は認められません。

 

以上のように、試用期間後の本採用拒否は、裁判では簡単には認められない傾向がありますので、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 

 
 

整理解雇とは

整理解雇は、判例では簡単には認められないので、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 

整理解雇とは、会社の業績悪化により事業継続が困難になることを防ぐため、再建策として行われる人員の整理として、会社が労働者を解雇することいいます。つまり、「業績が悪くて会社が潰れそうだから、社員の一部を解雇する」ということです。通常の解雇(普通解雇)とは異なります。

整理解雇とき、従業員側にはなんらの落ち度がなく、会社側の都合による解雇なのですから、解雇のハードルは相当に高くなっています。この整理解雇の基準は法律で定めるのではなく、戦後の判例の積み重ねによって築かれてきました。

 

東京高裁は東洋酸素事件(昭和54年(1979年)10月29日)で以下の基準を示し、その後の実務で定着しています。今から40年近く前の判例です。
以下の4つの要素です。

1解雇の必要性があること(業績が悪化していることなど)

  • 2 解雇を回避するための努力をしたこと(解雇以外の他の手段を充分に試みたか)
  • 3 人選が合理的であること(解雇対象者を恣意的に選んでいない)
  • 4 手続が相当であること(労働組合等に協議と説明をしたか)

仮に、要素の1について、本当に業績が悪化していたとしても、他の3要素を満たしていなければ、整理解雇が認められない可能性があります。

例えば、2の解雇回避努力とは、従業員の配置転換や給与賞与の削減、新規採用の停止、希望退職の募集など、整理解雇という手段に至る前に、相応の解雇回避努力をしたかということですが、それを満たしていない場合は、解雇が認められない可能性もあるのです。新規採用を継続している場合などは、2の解雇回避努力が認められにくい方向に働くでしょう。

 

以上のように、整理解雇は、判例では簡単には認められないので、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 

 
 

懲戒解雇の意義、要件、手続、退職金との関係

懲戒解雇に際しては、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 

懲戒解雇の意味

懲戒解雇とは、一般に従業員の「企業規律違反に対する制裁」として行われる解雇をいいます。これに対して、普通解雇は、能力不足や病気による就労不能などの場面で行われる解雇であり、「企業規律違反に対する制裁」でないことが異なります。一般に懲戒解雇の方が普通解雇より処分としては重くなりますし、従業員の不利益も大きくなります。

 

懲戒解雇の要件

企業が従業員に対して懲戒処分をするには、就業規則に懲戒理由となる事由とその種類・程度が明記されている必要があります。したがって懲戒解雇をする場合も懲戒解雇事由が就業規則に明記されている必要があります。一般には、重要な業務命令の拒否、横領、長期の無断欠勤、会社の名誉を著しく害する重大な犯罪行為、重大な経歴詐称などが該当します。

 

懲戒解雇の手続き

懲戒解雇は労働者に対するペナルティであるため、原則として処分を行う前に対象者に弁解の機会を与える必要があります。このような手続を履践しない場合は適正な手続を踏まないものとして、懲戒解雇は無効となる可能性もあります。

 

懲戒解雇と解雇手当

企業が従業員を解雇する場合、30日前に「解雇予告」するか、30日分の「解雇予告手当」を支払うことが義務付けられています(労働基準法第20条)。しかし、懲戒解雇では「労働基準監督署の除外認定」という制度があり、一定の場合に、労働基準監督署の認定を受けることにより、30日前の予告や解雇予告手当の支払いの義務が免除されます。もっとも、実際には「労働基準監督署の除外認定」をうけるのは面倒としてその申請をせずに、30日分の「解雇予告手当」を支払ったうえで懲戒解雇することも多いようです。

 

懲戒解雇と退職金

懲戒解雇の場合、退職金を支払わない(または減額)ことを退職金規程に定めている会社も多くあります。しかし、判例や主要な学説は、退職金不支給が許されるのは、従業員の過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまう程度の、著しい不信行為があった場合に限られると解しています。そこで、会社に損害を与えた程度や、企業秩序を乱した程度などの個別具体的な事情を考慮して退職金不支給の適否を検討することとなります。

 

以上のように、懲戒解雇に際しては、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 
 

普通解雇の意味、要件、手続、退職金との関係

普通解雇に際しては、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 

普通解雇の意味

普通解雇とは、能力不足や病気による就労不能など、従業員が労務の提供が行えなくなった場面で行われる解雇です。これに対して懲戒解雇は、従業員の「企業規律違反に対する制裁」として行われる解雇をいいますので普通解雇とは異なります。一般に懲戒解雇の方が処分としては重くなりますし、従業員の不利益(転職の際の不利益など)も大きくなります。

もっとも、懲戒解雇事由に該当するとしながら、処分としてはより軽い普通解雇とすることも認められています。企業からすると「懲戒解雇にすることもできたが、恩情をかけて(情状酌量して)普通解雇にした」との言い分になります。この場合でも、そもそも懲戒解雇事由に該当しなければ、その普通解雇も不当解雇になります。

 

普通解雇の要件

就業規則には解雇事由を定める必要があります(労働基準法89条3号)。多くの就業規則には、解雇事由が列挙される中に「勤務成績が著しく不良」「〜の障害により業務に耐えられないと認められたとき」などと書かれています。また、解雇事由の記載漏れがないよう、列挙される解雇事由の最後に「その他各号に準ずるやむを得ない事情があったとき」などと概括的・一般的条項が定めてあることも多いのです。

 

ただし、「勤務成績が著しく不良」とは、単に「期待に達していない」「同僚より劣っている」という程度では足りません。会社は、余程のことがない限り従業員を解雇することができません。特定の能力の不足を理由とする場合では、それが重大な能力不足で配置転換も困難であり、教育や指導を尽くしても改善の見込みがない場合という事情がある場合のみ解雇できます。会社が解雇できるハードルは相当に高いのです。

 

普通解雇と解雇予告手当

企業が従業員を解雇する場合、30日前に「解雇予告」するか、30日分の「解雇予告手当」を支払うことが義務付けられています(労働基準法第20条)。つまり、いきなり「今日から解雇なので明日から来なくてよい。給料は本日までしか払わない」ということはできず。申し渡してから30日後に解雇するか、即日解雇する場合には30日分の解雇手当を払う必要があります。

 

普通解雇と退職金

普通解雇の場合は、通常、就業規則等の退職金規定通りの退職金が支払われます。

一方懲戒解雇の場合は、退職金を支払わない(または減額)ことを退職金規程に定めている会社も多くあります。そこで、「懲戒解雇にすることもできたが、恩情をかけて(情状酌量して)普通解雇にした」という場合退職金の支払いが問題になることもあります。

この場合でも、判例や主要な学説は、退職金不支給が許されるのは、従業員の過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまう程度の、著しい不信行為があった場合に限られると解しています。そこで、会社に損害を与えた程度や、企業秩序を乱した程度などの個別具体的な事情を考慮して退職金不支給の適否を検討することとなります。

 

以上のように、普通解雇に際しては、慎重かつ丁寧な対応が必要となります。是非早めの相談をお勧めします。

 
 

残業代における割増賃金とは

労働基準法32条では、会社は原則として、休憩時間を除いて、「1日8時間、1週間で40時間」(これを法定労働時間といいます)を超えて、従業員を働かせてはいけないこととされています。

会社がこれ以上従業員に労働させた場合には、残業代を支払う必要があります。さらに、残業代には、通常の賃金より高い賃金(割り増しされた賃金)を払わなければなりません。

割増率は残業した時間帯ごとに計算します。

例えば普通の時間外労働では割増率は25%ですが、夜10時以降の深夜残業だとさらに25%加算された50%の割増率になります。

休日に出勤した場合は、35%の割増率となり、休日かつ夜10時以降の深夜残業だとさらに25%加算された60%が割増率になります。

 
 

過労死が認められる残業時間

過労死とは、長時間の残業や休みなしの勤務を強いられる結果、精神的・肉体的負担で、労働者が脳溢血、心臓麻痺、精神疾患による自殺などで突然に死亡することです。

過労死と認定されると、労働災害保険による給付をうけることもできます。

 

厚生労働省は、通達で、過労死の認定での業務の過重性の判断において、

発症前1ヶ月間におおむね100時間

発症前2〜6ヶ月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間

であると、業務過重性と死亡との関連性が強いと考えられるとしています。

( 厚生労働省通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」改正基発第05 0 7 第3号 平成22年5月7日 )

 

したがって、月当たりの残業が、恒常的に80時間を超えていたり、恒常的でなくとも100時間を超える残業になっていたら、過労死の危険がある危険な状態といえそうです。

 
 
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