退職金の性質と不支給

退職金の性質

退職金は、賃金の後払的性格と功労報償的性格を併せ持つとされています。

退職金を賃金の一部の後払いとみると、労働した従業員は「当然に」受け取りできる権利という意味が強く出てきますので、従業員側(労働組合)から強調されることが多くなります。この考えからは、退職金の額は予め決まった額(一定の計算式で計算された額)になるべきとの考えにつながります。

一方退職金を功労報償とみると、在職中の功績を退職時に経営者が改めて評価して払う報償という意味が強くなります。そうすると会社が、従業員の退職時に、退職金の額を退職時における総合評価によって決定できるという考えに繫がりやすいので、経営者から強調されることが多いのです。勤続年数が長くなるほど退職金が年数比例以上に大きく増額されたり、自己都合退職(転職)や会社都合退職・定年退職との間に退職金の金額に差を設けたり、退職後競合他社に転職した場合に退職金を減額すると定める規定の根拠として、功労報償としての側面が主張されています。

 

退職金不支給の要件

 

退職金請求権は、就業規則(退職金規定など)、雇用契約、または労働協約などによって支給の条件を明確に定めたときに法的な権利として請求できます。

 

このとき、退職金規定では、懲戒解雇の場合や競合他社に転職した場合には、退職金を不支給にすると規定するものもあります。

 

もっとも、懲戒解雇ならば必ず退職金を不支給にすることが認められる訳ではありません。判例や主要な学説は、退職金不支給が許されるのは、従業員の過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまう程度の、著しい不信行為があった場合に限られると解しています。つまり、会社に損害を与えた程度や、企業秩序を乱した程度などの個別具体的な事情を考慮して退職金不支給の適否を検討することとなります。

また、裁判では、競合他社に転職した場合に全て退職金を不支給にすることが認められるわけでもなく、会社の損害の状況やノウハウや顧客の流出の可能性などが総合考慮されます。競合他社に転職した場合に全て退職金を不支給にするとした条項が公序良俗(民法90条)無効とされて退職金の全額を支払うように命じた判決もあります。

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